THINK
抽象性が宿る場所 見ることのアレゴリー ―ジョセフ・アルバースとエルズワース・ケリーと五月女哲平―
2024.09.06
抽象性ってどうゆうことなのかな?
抽象表現主義というカテゴリーは存在する。
芸術の中心地として君臨していたパリで、19世紀以降になると、ルネサンス以降の作風から完全に脱却したキュビズム、未来派、シュルレアリスム、抽象主義などの前衛芸術が生まれます。
抽象表現主義者たちはシュルレアリスムに最も影響を受けた。
シュルレアリスムとは「超現実主義」です。現実の先にある世界観のことを意味し、それは、目に見て捉えられることができる意識的な世界観ではなく、人が無意識の中に抱えている世界観で、その表現がミニマルに進化していった感じで、よくわからなくても良いよね!ってことになっていった。
技法としては、「アクション・ペインティング」と「カラーフィールド・ペインティング」の二傾向が顕著で、前者は、ジャクソン・ポロック、ウィレム・デクーニング、フランツ・クラインなどで、後者は、マーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、ロバート・マザウェル、エルズワース・ケリー、ジョセフ・アルバースとかに代表される。
参考までに書きましたが、美術史の上でのカテゴライズ云々は、まあ、どうでもよくて、私の興味はそこにはなく、「抽象性が宿る場所」に魅力を感じています。
Art cruise galleryで開催中の『GEO 五月女哲平展』。
彼の作品は、分類的にはカラーフィールド・ペインティングの抽象表現主義となるのかな?
五月女哲平:Shape of reminiscence #1(撮影:永禮賢)
ミニマルで抽象的でジオメトリック。
すごく好きな作品です。
この作品、抽象的という理解をするけど、正円と正方形でできていて、
造形的な意味では、きちんとした具体性を持っている。
じゃあ、どこが抽象的なのかな?
なにを描いたのか?なにを表現したいのか?ということがわからないからなのかな?
でも、正円と正方形ということは理解できる。多分、それらは要素としか受け止めていないから、それらによる具象的な意味を欲しがっているのだろう。
でも、正円と正方形は立派な具体物。
そこで感じるのは、絵画作品の抽象性ではなく、自分の中にある抽象性で向き合うべきなのではないか?ということ。
正円と正方形のような幾何形態が、生活の中に存在する場合、かならず何かの機能や役割を持っている。
例えばロゴマーク、国旗、信号機、スイッチ、寒天、豆腐、タイヤ、お日様、CD、瓶の蓋、ボール、サイコロ、ルービックキューブ、時計、望遠鏡、虫眼鏡、などなど、あげるとキリがない。
人々が、理解不能な正円と正方形に出会った時、無意識に機能を見出そうとしてしまう。
そしてその答えは絵の中にはない。
五月女哲平作品における抽象性は、鑑賞者の中に位置していると思う。
つまり、見る人によって感情が異なる多様性を楽しむもの。
作品自体は誤解を恐れずに言うと「具象」なので、「抽象性が宿る場所」は自分の経験則ということだと思います。
私が大好きな巨匠、ジョセフ・アルバースとエルズワース・ケリー。
その2人の作品と五月女作品の共通項を感じていることも事実で、
それは、小難しい美術論ではなく、「抽象性が宿る場所」のことです。
ジョセフ・アルバースは正方形のグラデーションが有名で、
紛れもなくそれらは正方形の連続という具体性をもっている。
表現をぼやかして逃げていない。
ジョセフ・アルバース:DIC川村記念美術館展示(河内タカFBより)
エルズワース・ケリーも同様で、この作品は扇形(正円の4分の1)という具体性を堂々と持っている。いっさいの逃げがない。
エルズワース・ケリー:カタログページ(河内タカFBより)
この2人の作品もカラーフィールド・ペインティングの抽象表現主義に分類されるが、そんなことはどうでもよい。
どちらも、鑑賞者の経験則から導き出された抽象性による違和感という鑑賞体験をもたらす。
でも表現は具体的です。ものすごく。
作品の鑑賞者が「見る」から得たことから、紡ぎ出すアレゴリーは、
アーティストへフィードバックされる方法があると、次のステージが見えてくるような気がしています。
そして、つくることのアレゴリーへ変化するはず、、、、。
私は、理解できないものが、存在可能になることに興味があります。
いま、一番面白いと思うのは、自分が手がけた展示前のスケルトン空間だったりします。
これから作品が飾られる予定の、可能性しかない空間。
それは、とても不確かな状態の空間ですが、四角い箱、折れ曲がった壁という極めて具体的な状況ですが、なにも飾っていないと、一体何?という感情が湧いてきてとても面白い。
その面白さは「可能性」なのだろうと思う。
五月女作品にもそれを感じます。
見ることと、つくることのアレゴリーがそこにあったりします。
acg展示前のセノグラフィー
アレゴリー(英: allegory)とは、抽象的なことがらを具体化する表現技法の一つで、おもに絵画、詩文などの表現芸術の分野で駆使される。